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マウスL-PGDSの結晶(上)と3次元構造のリボン図(下)


PGD2 の睡眠作用と PGE2 の覚醒作用

カフェイン(15mg/kg; 人ではコーヒー3杯分相当)の腹腔内の投与後のマウスの覚醒時間の経時的変化
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■概要
私たちは、毎日眠ります。おそらく、人生の1/3〜1/4の時間を眠って過ごしています。人間に限らずどんな動物も眠ります。
眠るということは無防備で危険な行為であるにもかかわらず、食物連鎖の下層にいて、いつも敵に囲まれているネズミも命がけで眠ります。しかし、「なぜ眠るのか?」「睡眠中に脳内で何が起こっているのか?」これらの質問に対する科学的な解答は見い出されていません。
世はまさにストレス時代であります。
また、時間を超えて情報が飛び交うグローバル時代でもあり、昼夜をわかたず働く人、世界を股にかけて働く人が増えています。睡眠不足がたまると判断力や集中力が低下し、仕事の能率が下がり、事故を招きます。
一方、老齢化も進み、睡眠障害を抱える人口が増加の一途をたどっています。不眠を訴える人の多くは睡眠剤を服用していますが、それらは、精神安定剤から処方を変更して開発された薬であり、非生理的な睡眠や昏睡を引き起こすこともあります。いま、本当に求められているのは、「自然な眠り」をもたらす副作用の無い「眠り薬」です。その開発には、睡眠を科学的に理解する事が何より重要です。
睡眠は、ノンレム睡眠(徐波睡眠)とレム睡眠(逆説睡眠)の2種種に大別されます。ノンレム睡眠は大脳の活動がほとんど停止している状態、レム睡眠は全身は脱力状態にあるが脳の一部は活発に活動し夢を見ている状態です。この二つが一定の間隔で繰り返され私たちの眠りを形成しています。現在の科学では、脳波を測定する事により睡眠そのものを客観的数値として測定できるようになりました。
「長い時間起きていると、どんどん眠くなる。」誰もが体験するこの現象に着目して、20世紀初頭に日本の石森国臣博士とフランスのH.ピエロン博士は、それぞれ独自に、長時間断眠させたイヌの脳脊髄液を別のイヌの脳内に投与することでそのイヌが眠る事を発見し、断眠中に脳内に蓄積する「睡眠物質」の存在を予言しました。
「睡眠物質」とは自然な睡眠を誘発する内因性の物質であり、現在までに数十種が同定されています。当研究部が研究を進めているプロスタグランジン(PG)D2は、その中でも最も強力な睡眠誘発作用を有し分子レベルでの作用機構の研究が最も進んだ睡眠物質です。
PGD2は、脳を包むクモ膜と脳室内の脈絡叢で活発に産生された後、脳脊髄液に分泌されて、睡眠ホルモンとして脳内を循環します。さらに、前脳基底部のクモ膜に局在するPGD2受容体に作用して睡眠中枢を活性化し、脳の疲労回復に重要なノンレム睡眠を選択的に誘発します。つまり「眠る脳」は脳の実質ですが、「眠らせる脳」は膜組織と脳室やクモ膜下腔のような脳の周りを包む空間とそれを満たしている脳脊髄液なのです。
当部門では睡眠覚醒調節の分子機構の解明を目指し、PGD2およびその睡眠情報を脳内に伝える第2の睡眠物質であるアデノシン、PGD2と相反する生理活性を示す覚醒ホルモンであるPGE2やオレキシン、さらに、これらの覚醒情報を伝達するヒスタミンなどの研究を「遺伝子操作マウスの睡眠解析」という新しい研究方法を導入して行っています。これらの研究成果は、現代人が必要とする快適な「眠り」や「目覚め」をもたらす夢の医薬品の開発の基盤となることが期待されています。
■研究内容
当部門では、中枢神経系で作られる主要なプロスタグランジンであるプロスタグランジンD2(PGD2)を動物の脳内に投与すると自然な睡眠が起きる事を発見しました。PGD2による睡眠は、脳波や動物行動学的な観察から生理的な睡眠とまったく同じであることが証明されています。さらに、脳内でPGD2を作る酵素は脳を包んでいるクモ膜に存在することを明らかにし、この酵素の働きについての研究を続けるほか、睡眠が起きるときにはPGD2によって細胞にどのような変化がもたらされているかについて究明を続けています。睡眠と覚醒というあらゆる生物において最も基本となる営みが解明されれば、気分、感情、認知、記憶や学習といった神経や精神に関するさまざまな現象もさらに深く理解され、神経・精神科の臨床をはじめ社会のあらゆる方面で役立つことでしょう。
また、PGD2はアレルギー反応にも関わっていることが知られていますが、その合成は中枢とは別の酵素によって行われています。当部門では、中枢でPGD2を作る酵素、アレルギーの原因となるPGD2を作る酵素それぞれの結晶を得ることに成功し、構造の解析を行いました。これらの酵素を大量に発現させたマウスを作ることにも成功しています。これらの研究は、新しく副作用の少ない「居眠り防止薬」「抗アレルギー薬」などを設計し評価するために重要な成果です。
さらに「眠り病」を引き起こす寄生原虫のプロスタグランジン産生経路についての研究も行っています。
■研究課題
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プロスタグランジンD2により誘発される睡眠の情報伝達機構を明らかにする。 |
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プロスタグランジン D合成酵素の組織分布や細胞局在を明らかにする。 |
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プロスタグランジン D合成酵素遺伝子の発現調節機構を明らかにする。 |
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プロスタグランジン D合成酵素の結晶構造解析を行い、三次元構造を明らかにする。 |
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